world's end girlfriend "Enchanted Landscape Escape"

world's end girlfriend
"Enchanted Landscape Escape"
HHR47 ¥2,000 (CD)
2007.11.09 Release
Track listing:
- Yesterdays Light Circus
蠍座サーカス団 演目:光と砂鉄による昨日の描写
- Breath Cannon Escape Wall
カノン形式による「呼吸」「逃避」「壁終止」
- Old Winter Ferris Wheel

観覧車から見えた遠い冬
- Lover Teresa Dead Field
テレサさん荒野
- Falling Marble Chair

落下する椅子
- Sheep Creep
子守唄より「真っ赤な羊は故国へ」
- Shine Hill in The Palm
掌の中の丘と影
- Sleeping Under The Rainbow
二重の虹/最中での眠り/グランドピアノアンダーグラウンド
- Purple Ripple
紫の波紋 カラス
- Snow Crystal Lake
雪の結晶 カラス
- Rain Prayer
雨月の語り部
- Grandfather Clock Heart
時計の最後について 雪の砂浜に散乱している壊れた黄色い傘
- Nobody Comes Ghost Goes
蠍座サーカス団 演目:無人と幽霊の時の遡上
world’s end girlfriend(以下weg)の音楽を筆者が初めて耳にしたのは、2001年のことだった。極限まで切り刻まれた電子音の凶暴なる
ノイズと、ある種の残酷さすら醸し出す美しいメロディに、強い戦慄を覚えたことは、今でも記憶に焼きついている。当時海外ではオウテカや
ボーズ・オブ・カナダなどのエレクトロニカ勢が評価を集め、ブレイクコアなどいわゆる“エイフェックス・ツイン以降”のサウンドを鳴らす
アーティストも数多くいた。しかし、同じく打ち込みという手法を用いていたwegが他のどんなアーティストとも異なっていたのは、その音にまるで“言霊”の
ようなものが宿っていたことだった。単なるスタイルやフォーマットの斬新さではなく、壮大なドラマツルギーを持った物語を描く必然としてのサウンド。
その後、生楽器の導入など様々な音楽性の変遷を経たwegだが、今年3月にリリースされた最新作『Hurtbreak Wonderland』に至るまで、そのメカニズムは
全く変わっていない。
本作『enchanted landscape escape』は、そんな彼が2002年にwonderland falling yesterday(以下wfy)という別名義でリリースしたアルバム。
「別名義」とは言っても、名前を見れば一目瞭然な通り、彼にとってはその表現の根核は同じものである。当時にもweg名義でリリースすることが
企図されていたそうだが、周囲の事情もあって別の名義での発売となったという。そのせいで今まで比較的手にとるリスナーは少なかった本作だが、
彼自身の思い入れは非常に大きなものだった。そして5年後の現在、本人の強い意志によって、新たに内容を改めweg名義にて再リリースされたのが
このアルバムである。
wegが本格的に活動を開始したのは、2000年のこと。いくつかのコンピレーションへの楽曲収録を経て、半野喜弘の主宰するレーベル「Current」から
ファースト・アルバム『ending story』をリリース。そして、翌年にはMIDI Creativeに移籍し、セカンド『farewell kingdom』をリリースしている。
徐々に注目を集め始めたwegは02年に4曲入り50分強のミニ・アルバム『dream’s end come true』をmidi creative/nobleから発売。それと同時に作られたのが、
wfy名義でレーベルcubic musicからリリースされた『enchanted~』だ。
制作やリリースの時期が同じだっただけでなく、この2枚は鏡のように対になる関係を持っていた。『dream’s end~』の最後に収められた楽曲のタイトルは、
「wonderland falling tomorrow」。そして、(再リリースされた本作には収められていないが)当時リリースされた『enchanted~』の最終曲は
「wonderland falling today」。つまり、同一の世界を異なる視点から描いた2つの物語が、この2枚のアルバムなのである。
「相反する形態をとりつつも同じ世界を視点の距離や数のちがいで描く事によって、引き寄せあったり、反発するポイントをいくつかつくり、
ラストシーンで二つの物語の流れが一つになるという形をとりました」――と、彼はこの2枚についてコメントしている。
wegのヒストリー上においても、『dream’s end~』という作品は大きな位置を占めている。それまで電子音中心のサウンドメサウンドメイキングを
していたwegが、美しい弦楽器の旋律を初めて大々的に導入、凶暴なエレクトロニカとの融合を果たした一枚だ。そして、この『enchanted~』では
全曲にわたってドラムレスのサウンドで構築されている。クラシカルな和音の響きと柔らかな音色の電子音を中心に、時折りノイズ・サンプルが挿入される。
weg史上屈指の“静謐さ”を持つ作品。当時は、いわばwegにとっての“アナザーサイド”としてリリースされたが、今の時点から振り返ってみると、
むしろその後の彼の方向性に深く寄与している作品のようにも思える。
というわけで、今作を手に取っている方々には是非旧譜の『dream’s end~』も聴いていただきたいのだが、こうして再リリースされた『enchanted~』は
決して「対になる2枚のうちの1枚」という位置づけではない。アルバムのラストは未発表の新曲「Nobody Comes Ghost Goes」に差し替えられ、
彼曰く「単体で物語が成り立つ」ものとなっている。
「weg名義にすることによって、その物語をより自分との関係が深く(近く)なるという感覚があるのでweg名義に変更したいという気持ちがあります」――と、
彼はコメントしている。なかなか言葉では名状しがたい感覚だが、少なくとも彼にとってwegとwfyという二つの名義は単なる名前の違いではないのだろう。
推測するに、彼の脳内に描かれた物語が音楽に変換されるチャンネルの違いなのではないだろうか。
“楽園の崩壊”。魔法がかけられたかのような素敵な場所が、消失してゆく。アーティスト名義やアルバム・タイトルに冠せられた名前からは、
色濃い終末感と喪失感がにじむ。筆致は穏やかだが、聴いているうちにどんどん惹き込まれるような一枚だ。2002年の時点で彼が達していた「深み」を、
改めて感じて欲しい。
2007年9月 ライター/柴那典
注)cubic musicより発売のwonderland falling yesterday名義の盤に収録されていた
Tr.13: Good morning Hellwalker (1:16)
Tr.14: Wonderland Falling Today (6:47)
は今回カットされ今作は新たなトラックとして
Tr.13: Nobody Comes Ghost Goes 蠍座サーカス団 演目:無人と幽霊の時の遡上 (14:13)
が収録されています。ご了承ください。